第44号 労働保険の年度更新と計算方法
労災保険と雇用保険の保険料(労働保険料)は、年度はじめに概算の保険料を計算して申告納付します。翌年度のはじめに前年度の保険料を確定して、概算で納めていた保険料と清算し、翌年度の概算の保険料を申告納付することになります。これを年度更新と言いますが、今回は年度更新について解説します。
年度更新とはこういうことだ
<この記事の目次>
労働保険の保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間(これを「保険年度」といいます。)を単位として計算されることになっており、その額はすべての労働者(雇用保険については、被保険者)に支払われる賃金の総額に、その事業ごとに定められた保険料率を乗じて算定することになっています。
労働保険では、保険年度ごとに概算で保険料を納付(徴収法第15条)するため、保険年度末に賃金総額が確定したあとに精算(徴収法第19条)するという方法をとっています。
事業主は、前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付と新年度の概算保険料を納付するための申告・納付の手続きが必要となります。これが「年度更新」の手続きです。
年度更新の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間に行わなければなりません。
手続きが遅れると、政府が保険料・拠出金の額を決定し、さらに追徴金(納付すべき保険料・拠出金の10%)を課すことがありますので注意してください。
確定保険料額と概算保険料額の計算
まず、大前提として、労働保険料の内訳について理解しておいてください。
労働保険料 = 労災保険に関わる保険料 + 雇用保険に関わる保険料
このように労働保険料は、労災保険に関わる保険料と雇用保険に関わる保険料を足した額 になります。
では、この内訳となっている個々の保険料計算についてみていきましょう。
1) 労災保険に関わる保険料
労災保険の保険料は、会社が全額負担します。
保険料の額は、労働者に支払う賃金総額(概算保険料では見込額)に職種や業務内容によって定められている保険料率を乗じて計算した額になります。
概算労災保険料額(※1) = 全労働者(※3)の賃金総額の見込額 × 労災保険率(※4)
確定労災保険料額(※2) = 全労働者(※3)の賃金総額の確定額 × 労災保険率 (※4)
概算労災保険料額(※1)の計算では、賃金総額の見込額が直前の保険年度の賃金総額の50/100以上かつ200/100以下である場合は、直前の保険年度の賃金総額を見込額として計算します。また賃金総額に1000円未満の端数が出た場合は、切り捨てとします。
確定労災保険料額(※2)の計算では、支払の確定した賃金総額を用いて計算します。
全労働者(※3)とは、一般社員だけでなく、役員でも労働者扱いになる人(兼務役員)やアルバイト・パート等の臨時労働者も含まれます。但し、派遣社員は含まれません。
労災保険率(※4)は、厚生労働省ホームページ 労災保険制度で公示されています。
2) 雇用保険に関わる保険料
雇用保険の保険料は、会社と社員で負担します。
毎月の給与計算事務で、給与から社員負担の雇用保険料を徴収しますが、国に納める保険料は年1回まとめて納付することになります。
概算雇用保険料額(※1) = 雇用保険に加入している全労働者(※3)の賃金総額の見込額
- 免除対象高年齢労働者(※4)の賃金総額の見込額
× 雇用保険率(※5)
確定雇用保険料額(※2) = 雇用保険に加入している全労働者(※3)の賃金総額の確定額
- 免除対象高年齢労働者(※4)の賃金総額の確定額
× 雇用保険率(※5)
概算雇用保険料額(※1)の計算では、賃金総額の見込額が直前の保険年度の賃金総額の50/100以上かつ200/100以下である場合は、直前の保険年度の賃金総額を見込額として計算します。また賃金総額に1000円未満の端数が出た場合は、切り捨てとします。
確定雇用保険料額(※2)の計算では、支払の確定した賃金総額を用いて計算します。
全労働者(※3)とは、一般社員だけでなく、役員でも労働者扱いになる人(兼務役員)やアルバイト・パート等の臨時労働者も含まれますが、1週20時間未満の労働時間の人などで雇用保険の被保険者になれない人の賃金は除外されます。
免除対象高年齢労働者(※4)とは、保険年度の初日(4月1日)において64歳以上である雇用保険の被保険者を言います。これらの人は雇用保険の保険料が免除されるため計算から除外します。
雇用保険率(※5)は、厚生労働省ホームページ で公示されています。
ポイント! 賃金総額の「賃金」とは?
計算する「賃金総額」というのがありますが、この「賃金」にはなにが含まれて、なにが含まれないのか、結構、迷ったりするものです。ちょっと、まとめておきますね。非課税通勤費なども賃金に含まれます。
賃金に含まれるもの | ・基本給 ・超過勤務手当、深夜手当、休日手当 ・扶養手当、子供手当、家族手当 ・日直、宿直料 ・役職手当、管理職手当 ・地域手当 ・教育手当 ・別居手当 ・技能手当 ・特殊作業手当 ・奨励手当 ・物価手当 ・調整手当 ・賞与 ・通勤手当 ・通勤定期券、回数券 ・皆勤手当 ・遡って昇給した場合に支給される差額の給与 ・有給休暇の給与 ・休業手当(労働基準法第26条の規定にもとづくもの) ・所得税、雇用保険料、社会保険料等の労働者負担分を事業主が負担する場合 ・チップ(奉仕料の配分として事業主から受けるもの) ・住居の利益(社宅等の貸与を行っている場合のうち体よを受けない者に対して均衡上、住宅手当を支給する場合) |
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賃金に含まれないもの | ・労働基準法第76条の規定に基づく休業補償 ・退職金 ・結婚祝金 ・死亡弔慰金 ・出張旅費、宿泊旅費 ・解雇予告手当 ・制服、赴任手当 ・会社が全額負担する生命保険の掛け金 ・役員報酬 ・災害見舞金、出産見舞金等(いずれも労働協約等によって事業主にその支給が義務付けられていても賃金としては扱わない) ・住居の利益(一部の社員に社宅等の貸与を行っていが、他の者に均衡給与が支給されていない場合) |